その六・永遠の別れ

「う、うそだろ?HIME?・・・悪い冗談でからかうのはよしてくれよ。それとも眠っているのか?・・・HIME?」

目の前で起きたことがぶらっきーには信じられなかった。
 
そこは病院の一室。成長が平均より遅かったこともあり心配もしていたが、お腹の中での動きがわかるようになったばかりの時だった。

急な産気を催し、急ぎ救急車でHIMEを運んだ。
が・・・ぶらっきーのその幸福の絶頂は、最悪の結末によって終止符を打たれた。
そう、母子共、あの世へ旅だったのである。

「オ、オレが君を殺しちゃったのか?出産、大丈夫か?って言ったとき、女神様のような笑顔で、大丈夫よ♪って言ってたじゃないか?なのに・・なのに、お腹の子と一緒に逝ってしまうなんて・・・ほら、元気に動いてるよって、オレに触らせてくれたじゃないか?つい昨日の事なんだぞ?・・・HIME?・・なー、嘘だろ?オレをからかってるんだろ?こんなときにやめろって。・・・・HIME?・・・なー、目を開けてくれよ!」

 
 翌日、未だHIMEの死が信じられず、呆然としているぶらっきーの周囲で、親族が葬儀の準備を始めていた。

「ちょっと待てよ、勝手に葬儀の準備なんかすんじゃねーよ?
HIMEは寝てるだけなんだから・・・今に目を開けていつもの笑顔で・・・・
だから・・だから・・待ってくれよ!!」
が、当然のごとく、ぶらっきーの声など聞き入れられはずはない。
着々と準備は進み、葬儀はまるで別世界で執り行われているように、ぶらっきーの瞳には写っていた。
 
「うっせーーっ!てめぇら葬儀が終わったばっかでよくそんなこと言えるよなーっ?!」
大声で怒ったことのないぶらっきーが荒れていた。

ちゃぶ台をひっくりかえ・・・・したい気分というのは、こういう気分のことを言うのだろう、とぶらっきーは思っていた。
が、残念なことに洋風のHIMEの城にそんなものはあるわけない。

その代わりに、親族一同で囲んでいた白檀のテーブルを蹴り上げようとも思ったらしいが、・職人が腕によりをかけて彫刻をほどこした分厚いそれを蹴り上げたりすれば、足の骨が折れてしまうことが容易に予想できた。

−バン!!!−
怒りを込め、勢いよくテーブルを両手で叩いて、ぶらっきーはその部屋を後にした。
そう、HIMEの親族は、早くもぶらっきーを追い出しにかかっていた。

「ちっくしょー!財産狙いでHIMEと一緒になったわけじゃないぞっ!!!」
じーーーんと痛みの走る手をさすりながら、やりきれなさを感じながら、ぶらっきーはドアを背にし、涙を堪えしばらく立っていた。


翌日、親族中の意味ありげな視線に嫌気がさし、そこに居場所がないことを悟ったぶらっきーは、城を出ることを決心した。そのままいたら、2人のそれまでの思い出までもが汚されてしまうような気がしていた。

「ほらよ!これで気がすんだだろ?」

会いたくなったらいつでも墓参できることのみを条件として、一切の権利を放棄するという書面を書き、一族の筆頭であるHIMEの叔父の顔に投げつけて、ぶらっきーは城を後にした。

「旦那様・・・」
「ルドルフ・・短い間だったけど、世話になった。時々来るけど、HIMEの(墓の)事は頼むな。」
「旦那様・・・・」
財産目当てや名をあげる事が目当てなどではなく、純粋に惹かれ合って結婚した。そのことは、普段の2人の生活を知る執事、ルドルフにはよく分かっていた。

海が大好きで、海に城を建てたHIME。彼女は、その城を囲む庭の一角、海を眺めることができる小高い丘に埋めてくれと遺書を残していた。

ぶらっきーは、逃げるように城のあるその島を離れた。一度として振り返ることもなく。
それは、もし瞬間的でも振り返ったりしたら、船から飛び込んで泳いで帰ってしまいそうだったからである。


「オレは男だ!見ていてくれ、HIME!きっと超有名な画家になってみせる!」
空を仰ぎ、ぶらっきーは叫んでいた。 
 


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